電子回路第2及び演習?

代表的な質問について回答します。2年生の人は、まだ、知識が少ないので、説明が解らないところもあると思いますが、専門知識が増えれば徐々に解るようになります。

  • ポール、ゼロの意味
    • (1) s平面上のポールとゼロ配置が、伝達関数の関数形と1対1に対応していること、(2) ポールとゼロの位置から、周波数特性が推定できることは講義で分かったと思います。しかし、ポールとゼロの配置は、周波数特性よりも、回路の安定性を調べるために重要な意味を持っています。詳しくは制御理論を学ぶ必要がありますが、結果だけ大まかに言えば、s平面上で、ポールが虚数軸または右半面にある回路は安定しません。つまり、出力波形が、発振または発散波形となります。このことは、ポールが虚数軸または右半面にある伝達関数にデルタ関数を掛けて、逆ラプラス変換(s変数から時間領域に戻す)すればすぐに解ります。デルタ関数はノイズの波形と類似していますので、微少なノイズが入ると、回路の出力が大きく振動することを意味しています。また、これを安定化させるためには、ポールと同じ位置にゼロを作って、ポールをキャンセルするように回路を修正すればよいといったことも解ります(式の上では、伝達関数の分子と分母を約す)。逆に、発振回路を作りたい場合は、ポールが虚数軸の上に来るような伝達関数となる回路を作成すればよいことになります。
  • 伝達関数の必要性
    • 伝達関数は、信号処理(平均、補間、アナログ-ディジタル変換、レート変換、変復調、コーディング、チャネル推定、暗号化、データ圧縮など)の演算手順から作成できます。具体的には、計算手順を漸化式や級数で表し、入力と出力の比を求めたものが伝達関数になります。入力信号に関係なくif文によって演算内容が途中で変わるような処理、つまり、入力変数以外の変数を含む処理は1個の伝達関数では表せません。このため、伝達関数で表される回路は、線形時不変システム(途中で処理内容やパラメータが変更されないシステム)と呼ばれます。要するに、if文の中に書かれた、if文を含まない処理を行うための回路ブロックの設計に必要なのが伝達関数です。
      伝達関数が求められると、自動的にアナログ回路の回路図を作成できます。また、s変数の伝達関数をさらにZ変換すると(s変数の指数関数であるz変数の関数に変換する方法)、自動的にディジタル回路の回路図に変換することができます。プロの回路設計者は、これらの変数変換の知識を駆使して、複雑な回路を半自動的に設計していますが、それなりに多くの基礎知識が必要なので、当面は、ポールとゼロの意味と、ボード線図との関係だけ押さえておけば問題ないでしょう。
  • ボーデ線図の意味
    • 回路の入力信号がsinやcosなどの周期波形の場合、入力-出力の関係は、振幅の変化と位相の変化で表すことができます。したがって、回路の周波数特性は、横軸を周波数、縦軸を伝達関数の振幅と位相とするボーデ線図によって表されます。このため、回路シミュレータで周波数特性を調べると、ボーデ線図が表示されます。講義の後のほうの章で説明しますが、ボーデ線図から、回路の動作周波数帯域および信号処理精度を求めることができます。ボーデ線図を考慮しないと、回路の動作速度範囲外で動かそうとしていたり、非常に精度の低い制御を行うことになります。
  • コーナ周波数(遮断周波数)のところでなぜ振幅と位相が変化するのか
    • 伝達関数において、角周波数をw, wの係数をXとすると、コーナ周波数は、伝達関数の中の 1 + jwX の部分で、1 + jwX = 1 + j または 1 = wX となる角周波数wです。つまり、1 の項も jwX の項も無視できない周波数がコーナ周波数です。もし、1 >> wX なら 1 + jwX = 1 (つまりwに依存しない実数定数)と近似できます。1 << wX なら、1 + jwX = jwX (つまり、大きさはwに比例する直線であり、位相は90度の定数)と近似できます。従って、コーナ周波数の付近だけが、振幅の傾きと位相が変化する場所となります。
  • コーナ角周波数の意味は何か
    • コーナ周波数を調べる意味は2つあります。
      (1) 各種線形演算が行われる周波数領域を知ることができます。積分が行われる周波数領域(-20dB/Dec)、微分が行われる周波数領域(+20dB/Dec)、特に処理を行わない領域(傾きなし)、共振が起こる領域(+40dB/Decから-40dB/Decに変化)などを知ることができます。ただし、これらの演算の組み合わせが何の処理をしているのかは、伝達関数やボード線図からは分かりません。必要としている処理(伝達関数)と、設計した回路(ボード線図)が合致しているか確認するためにコーナ周波数が使用できます。
      (2) 増幅回路が動作する周波数帯域を調べられます。増幅回路は、定数の伝達関数であり、周波数に依存しないことが理想です。しかし、現実には、無限に高い周波数まで増幅回路が動作することはありません。どこかの周波数にコーナがあり、増幅率が下がってきます。一方、コーナ周波数よりも低い周波数帯域では、理想の増幅回路として動作することが保証できます。増幅回路とR,L,Cを組み合わせて、いろいろな信号処理回路が設計できますが、少なくとも、処理しようとする信号波形に含まれる周波数よりも高いコーナ周波数が、増幅回路に求められます。
  • 等価回路の定理の必要性
    • 等価回路の定理を使用すると、複雑な回路を簡単な回路に置き換えて解析できます。等価回路の主な使い道は、下記の3つになります。
      (1) 半導体デバイスの動作モデル(等価回路モデル)によるシミュレーション時間の短縮
      (2) 信号源と負荷の等価回路表現
      (3) 電気信号以外を扱うデバイスのシミュレーション

      (1) 例えばOPA(オペアンプ)は、100個以上のトランジスタで構成されているため、OPAをたくさん使った回路をシミュレーションすると膨大な時間が必要です。ましてや、100万ゲートを超えるようなディジタル回路の回路シミュレーションは、事実上不可能です。このため、オペアンプや論理ゲートの機能や特性を等価回路に置き換えて、シミュレーションを行うのが一般的です。
      (2) 講義で説明したように、解析しようとしている回路は、入力端子に繋がる回路(信号源)と出力端子に繋がる回路(負荷)の影響を受けます。このため、ある回路を解析しようとすると、信号源回路の中身および負荷回路の中身を一緒に解析する必要があります。さらに、信号源回路の入力に繋がる信号源回路、負荷回路に繋がる負荷回路も必要になり、結局、全システムの回路図がないと回路解析やシミュレーションができないということになります。このため、解析対象の信号源と負荷を等価回路で表して、解析範囲を限定する必要があるのです。
      (3) センサ(物理量)や無線通信のアンテナ(電磁界)、スピーカ(空気振動)など回路ではないものと接続するシステムでは、回路解析が不可能ですが、等価回路に置き換えることで、解析が可能になります。後日、太陽電池のシミュレーションの例で詳しく紹介しますが、光を入力とする太陽電池自体は、デバイスモデルがないため回路シミュレーションができません。しかし、等価回路を使うことにより、シミュレーションが可能となります。
  • 非線形回路方程式は解けないのにシミュレーション出来るのはなぜか
    • 講義で示したように、ダイオードの電流-電圧特性が指数関数であるため、ダイオードを通る電流を数式で解くことはできません。一方、シミュレータは、数式を解くソフトではなく、数値計算ソフトです。数値計算ソフトとは、数式を満足する値またはカーブを推定するソフトです。簡単に言えば、適当に値を入れてみて、予め与えられた許容誤差の範囲内で、数式を満足しているかどうかを判定し、数式を満足する値が見つかるまで繰り返します。許容誤差を小さく設定すれば、正確な値が求まりますが、許容誤差の範囲に入る値を探索するのにかかる時間(収束時間)が長くなります、また、コンピュータの演算誤差よりも高精度な値を得ることは出来ません。多くの数値計算アルゴリズムがありますが、SPICE系と呼ばれる回路シミュレータの場合は、Newton-Raphson法という数値計算アルゴリズムを使用しています。自然界の殆どの現象は、物理法則により定式化できますが、大半は数学的に解けません。高校の物理でも習ったと思いますが、ニュートンの方程式は、相互作用のある物体が2個までなら解けますが、3個以上になると解けないことが数学的に証明できます。例えば、太陽と地球の運動は解けますが、月も加わると、数式としてこの3体の軌道を求めることが出来なくなります。従って、高速に正しい解を探し出す、数値計算アルゴリズムが非常に重要になります。
  • 電子回路シミュレータで早く設計をしたい
    • 回路シミュレーションができると回路が理解しやすく、いろいろ試したくなります。これ自体、楽しいことです。ただし、回路シミュレーションの結果が、何を意味しているかを理解するためには、電子回路を理論的に理解している必要があります。例えば、回路シミュレーションを行うと、入力波形に対する出力波形や、ボード線図などが表示されますが、その結果、自分が設計した回路が正常動作しているのかどうかを判断するためには、波形やボード線図が何を表しているかを理解する必要があります。これが理解できるようになるとしめたものです。実際にお金をかけて回路を製作しなくても、自分のアイデアや他所で発明された新技術で応用システムが動作するかどうか検証でき、そのデータを根拠に特許を取得することもできます。実際に、私は、シミュレーション技術によりアイデアの原理検証を行い、特許を取得してから、ゆっくりと資金調達と技術開発を行っています。
  • IoT(Internet of Things)とIoE(Internet of Everything)の違い
    • これらは技術用語や学術用語ではなく、ビジネスや社会システムにおけるパラダイムシフトを表す流行語で、明確な定義はありません。ですが、一般的な理解としては、どちらの用語も、センシング、データ収集、データ解析、サービスの4領域にまたがる情報の循環を生み出し、新しいビジネスを生み出すことを指しています。IoTは、物流分野から始まった用語なので、より広い分野で使えるようにIoEという用語が考えられたと思われますが、意味的には同じことを指す別の言い方と考えてよいと思います。
  • デシベルとは何か
    • 講義で説明したと思いますが、デシベルは、値の比を表す量です。定義は、dB = 20log(|A/B|) です。ここで、log は常用対数関数です。要するに、比A/Bの絶対値の対数をとった値です。A = output, B = input とすると、A/B は、入力振幅と出力振幅の比 = 利得(増幅率)になります。注意点は、AとBは同じ次元でなければならないことです。電子回路の特性は、変化が大きいので対数をとって表すのが便利です。このため、伝達関数の絶対値や信号-雑音比など、多くの場面でデシベルが用いられます。例えば演算増幅器の利得は、120dB程度ですが、単純に増幅率で表すと、10^(120/20) = 10^6 = 100万倍 となり、非常に大きな値になります。
  • ラプラス変換の式が分からなかった
    • これは、なぜか既学習の人と、未学習の人がいるようですが、画像、音声、無線などの信号処理では、常識なので、そのうち習うと思いますので、電子回路第2では知らなくても問題ありません。普通は電気回路で習うものなのですが、フーリエ変換よりは少しイメージしにくいので、講義担当者が不合格者の増加を恐れて省略したのかもしれません。スライドで示したのは、ラプラス変換の定義であり、なぜこうなるのかという質問は無意味です。フーリエ変換の親戚ぐらいの理解でよいと思いますが、微分方程式を解くときには強力な道具となります。特に、ステップ波形やインパルス波形(デルタ関数)のような周期的ではない波形を入力した場合は、ラプラス変換を使うと上手く解けます。この理由で、ディジタル信号(パルス)を扱うのも容易です。といっても、実際に使ってみないとぴんとこないと思うので、信号処理の講義でしっかり学んでください。
  • なぜLやCの電流-電圧特性が微分や積分なのか
    • 理論的根拠は電磁気学や特殊相対性理論に任せて、現象論として考えると、高校の物理で学んだように、帯電した電荷Qと電圧Vの関係が比例しており(実験式であるクーロンの法則から求められる)、比例係数をCとすると、Q = CV (Cをキャパシタンスと呼ぶ)のように表されます。また、電流は、電荷の時間変化として定義されています。つまり、I = dQ/dt、従って、I = CdV/dt、両辺を積分すると積分表記の式が得られます。また、電磁誘導の法則(実験式)より、電流の時間変化とインダクタンスの両端の起電力が比例しており、V = -dF/dt, で表せます。ここで、Fは磁束です。磁束は、コイルの面積と電流に比例し、比例係数を透磁率uで表すと、F = uSI になります。ただし、コイルは1ターンとします。従って、コイルの面積が時間変化しなければ、V = -uSdI/dt = -LdI/dT, ただし、定数uSをインダクタLと定義します。両辺を積分すすと積分表記の式が得られます。
  • 微分や積分で表した回路方程式が見慣れなかった
    • LとCは、電流と電圧の関係が微分または積分で表されるため、本来、LとCを含む回路方程式は、微分や積分で表されます。しかし、これを解くのは面倒なので、簡単に計算する方法として(積分や微分を見えない形にして解く方法として)、複素ベクトル表記が考案されました。電気回路では、詳しい理由は横に置いて、インダクタンスやキャパシタの電流-電圧特性を、複素数で表す式を記憶することにより、微分や積分を目に見えない形にすることで簡単に回路方程式を解く方法を学んだのではないでしょうか。本来は、微分や積分の回路方程式から、複素数表記に変換する必要がありますが、いちいち手順を踏むまでもなく、電気回路で習った方法で計算して問題ありません。ただし、この計算法は、sinとcos関数で表されるオイラーの公式を利用しているため、sinとcosの足し合わせで表される周期的な波形の場合に限って使える方法です。ステップ関数やインパルス(デルタ関数)、非周期パルスを入力する場合は、複素ベクトル表記を使用せず、微分、積分を含む回路方程式を解く必要があります。
  • IDの式が解らなかった
    • IDを用いた回路方程式は分かったが、IDの指数関数の式が解らなかったという意味かと思います。この式の導出過程は、量子力学、固体物理学、量子統計力学などを完全に理解する必要があり、1科目の講義だけで理解できる内容ではありません。これを、結晶運動量、有効質量といった古典的モデルに翻訳するための概念または数学的手法(自由電子理論およびタイトバインディング理論)を使用して、古典力学(ニュートン力学と電磁気学)で表記したモデルを立てて、比較的簡単に誰でも理解できるようにしたものが半導体工学です。ダイオードとトランジスタの中の動作は、後で簡単に説明しますが、イメージのわきにくいところもあると思います。これを理解したければ、まず半導体工学(またはデバイス物理)を学んでください。それでも、ブラックボックスの部分がたくさんあって解った気はしないと思いますが、そこも理解したければ、量子力学の基礎から学んでください。実際問題として、回路を設計するためには、そこまでの知識は必要ありませんので、必要に応じて、必要なところだけ学ぶという姿勢でよいと思います。ただし、基礎科学に触れておくことはメリットもあります。例えば、近年、スパコン性能を遙かに凌ぐ、量子コンピュータが実用化されましたが、このアルゴリズムやプログラムを理解するためには、現状では、量子力学の原理と、物理現象の数学的性質を十分理解している必要があります。新技術が生まれたときには、基礎科学の知識があると大きな助けになります。
  • テブナンの定理とノートンの定理の使い分け
    • 指摘のように、使い分けは必要なく、同じことを言っています。どちらも、回路方程式の線形性から導かれます。
  • p.11 のラプラス変換の計算
    • これは、複素関数の積分が含まれるので、ラプラス変換を学んでいないと、難しいと計算だと思います。微分、積分に対する厳密なラプラス変換に基づいて計算するとこうなるのですが、ラプラス変換を学ぶと、いちいち、p.9の定義式に従って計算しなくても、各種関数や演算に対する変換表が与えられていて、これを使って各項をを置き換えるだけで、簡単に変換ができることが解ります。まだ、習っていないのであれば、この計算が解らなくても問題ありません。もっとも、いったん計算方法を知ってしまえば、非常に簡単な計算です。
  • p.12の公式
    • これは公式ではありません。ポールとゼロの定義です。

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Last-modified: 2018-11-05 (月) 11:34:12 (1992d)