ダイオードのモデリング

Dotダイオードモデル

 半導体デバイス(物理モデル)の中で最も簡単なダイオードのモデルを用いて、半導体の特性とデバイスモデルのパラメータがどのように関係しているか調べてみます。この他のデバイスモデルの詳細については、若干の半導体物理や最新のプロセス技術に関する知識を必要としますが、ダイオードモデルは昔乍らの1次元モデルで理解することができます。

Diode Model
図4-2-1 ダイオードモデルの構造

 この図のIDCは、ダイオードの直流特性を表す非線型電流源です。Rsは、半導体バルク、オーミックコンタクトの接触抵抗などを含めた直列抵抗を表します。Cは、キャリアの拡散容量と空乏層容量の和であり、バイアス電圧に依存します。この図より、直流特性は、IDC と Rs で決定され、交流特性は、Rs, C, dIDC/dV によって決定されることが解ります。過渡応答特性には、全てのデバイスモデルパラメータが関係しているということに注意して下さい。さらに、本質的デバイスモデルパラメータとしては定義されていませんが、GMIN (単位=1/ohm, デフォルト=1012)の値のコンダクタンスが、自動的にIDCと並列に挿入されています。これは、.OPTIONS コマンドで値を設定できますが、SPICEの計算の収束安定性を確保するためのものなので、GMIN=1012よりは小さくできません。このパラメータは、逆方向の漏れ電流の直流バイアス依存性を表現するためにも利用可能です。

Dotpn接合ダイオードのI-V特性

 pn接合ダイオードのゼロバイアス状態(熱平衡状態)のバンド図を図4-2-2に示します。図に示したp型とn型半導体の間の電位差Vbiは、ビルトイン・ポテンシャルと呼ばれ、p型とn型のキャリアの濃度差、即ちフェルミレベルの差による空乏層 (Depletion Region or Depletion Layer) の形成により生じます。この電位差によりn型半導体の多数キャリアである電子とp型半導体中の多数キャリアであるホールが空乏層によって塞き止められたような形となっています。

Band Diagram of pn Junction

図4-2-2 ゼロバイアス時のpn接合のバンド図

 図4-2-3に順方向バイアス印可時のバンド図を示します。順方向バイアスVの印可によりビルトイン・ポテンシャルVbiが(Vbi - V)に減少します。フェルミレベルは、本来、熱平衡状態でしか定義できませんが、接合面から離れた(電荷の)中性領域には、殆ど電圧がかからないため、この領域だけで適用できるフェルミレベルが定義できます。この制限付きフェルミレベルは、Quasi-Fermi Level(擬フェルミレベルと訳している本もありますが、通常、クェーザイ・フェルミレベルと言う)と呼ばれ、n型半導体中とp型半導体では異なる値となります。従って、図4-2-3のように、空乏層と電荷が注入された空乏層付近の領域では、電子に対するQuasi-Fermi Level(青色)とホールに対するQuasi-Fermi Level(赤色)が分離することになります。このQuasi-Fermi Levelの分離の大きさが、少数キャリア濃度の平衡状態からのずれの大きさを表しており、これに基づいて注入レベルの大きさが見積もることができます。注入レベルが小さく、多数キャリア濃度変化が小さい場合が低水準注入とよばれ、多数キャリア濃度の変化が無視できない場合が高水準注入と呼ばれます。高水準注入と低水準注入では、電流ー電圧特性の形が異なってきます。図4-2-3は、低水準注入の場合、即ち、少数キャリアの濃度勾配のみを考慮して描かれています(つまり、多数キャリアに対するQuasi-Fermi Levelが平坦です)。バンド図の中に、ホールと電子の濃度勾配による少数キャリアの拡散を示す矢印を描きました。これに対応する電流が、下の1次元pn接合モデルの中で、Electron DiffusionとHall Diffusionとして示してあります。これらの電流は、拡散電流と呼ばれ、この電流成分に基づく電流−電圧特性を示すダイオードが理想ダイオードと呼ばれます。この電流成分は、主に半導体のバンドギャップまたは真性キャリア濃度 ni の大きさによって特徴づけられます。
 さらに、同図には、Recombination (Generation) という矢印が描かれています。順バイアス条件下では、青いQuasi-Fermi Levelが上にくるため、空乏層内とその付近で、pn > ni2 となり、再結合レートが熱平衡状態よりも大きくなります。逆に、逆バイアス条件では、赤いQuasi-Fermi Levelが上にくるため、pn < ni2 となり、熱的発生レートが熱平衡状態の場合よりも大きくなります。これらのキャリアの発生または再結合による電流が、発生・再結合電流または空乏層電流と呼ばれる電流成分です。これは、主に空乏層中で起こる現象なので、逆バイアスまたは小さな順方向バイアス条件下で顕著に表れます。

 以上の理由により、ダイオードの直流電流−電圧特性は、拡散電流(低水準または高水準注入条件)、発生・再結合電流で特徴づけられますが、この他に、雪崩降伏現象(逆方向ブレークダウン)と直列抵抗による電圧降下の影響を考慮しなければなりません。

Band Diagram of pn Junction

図4-2-3 順バイアス時のpn接合のバンド図

 拡散電流モデルは、通常、理想ダイオード特性として半導体デバイスの教科書に紹介されているものです。SPICEでは、次の式(1-1a), (1-1b) で表します。

(注)SPICEのデバイスパラメータは、赤い文字で示すことにします。

ID = Is (eqV/kT - 1) (1-1a)

Is = q S ni2 {Dp/Nd Lp + Dn/Na Ln} (1-1b)

ここで、Isは、飽和電流と呼ばれ、Sは接合面積、niは真性キャリア濃度、Dp, Dn は、ホールと電子の拡散係数、Lp, Lnは、ホールと電子の拡散長、Nd, Na は、ドナー濃度とアクセプタ濃度です。

 一方、発生・再結合電流は、Shockley-Hall-Read 統計と呼ばれるキャリアの発生・再結合モデルに基づき、次のように求められます。

IRG = Is (eqV/2kT - 1) (1-2a)

Is = (qS ni W)/(2to) (1-2b)

ここで、Wは空乏層の幅、toは、発生・再結合レートです。

ID と IRG では、Is の物理的意味が異なっていますが、これらをまとめて次のように表すことが多いようです。

IDC = Is (eqV/N kT - 1) (1-3)

ここで、N は、Ideality Factor または、発生・再結合電流における Emission Coefficient と呼ばれる値です。IRG と ID の比率は、電圧によって変化するため、N の値も印可電圧に依存して変化しますが、オリジナルのSPICEモデルでは、1モデルに一つしか与えることができません。

 Is は、真性キャリア濃度 ni と関係しています。また、ni は、温度によって大きく変化します。そこで、SPICEでは、バンドギャップ EG と バンド端の実効状態密度に関する温度指数 XTI を用いて、Is の温度変化をシミュレートします。また、指数関数内の計算式は、バンドギャップの温度依存性を級数展開して1次近似したものです。

Is(T2) = Is(T1)*(T2/T1)XTI/N e(-qEG/N k T2) (1 - T2/T1) (1-4)

pn接合では、XTI=3, EG=1.11(Si) (eV), EG=0.67(Ge) (eV) である。拡散電流は、ni2 に、発生・再結合電流は、ni に比例することに注意しましょう。

 以上は、低水準注入の仮定に基づく解析ですが、オリジナルのSPICEには、高水準注入をシミュレートするパラメータが有りません。高水準注入では、N = 2 となり、電流−電圧特性の傾きが小さくなるので、直列抵抗 Rs による電流−電圧特性の傾きの鈍りを利用して、高水準注入の影響を模擬することが行われています。実際の測定においても、直列抵抗の影響と高水準注入の影響を分けることは困難です。直列抵抗による電圧降下の影響をシミュレートするためには、次の非線型方程式の数値解を得なければなりません。

IDC = Is (eq(V - IDC Rs)/kT - 1) (1-5)

 ダイオードモデルでは、逆方向のブレークダウンをシミュレートすることができます。バイポーラトランジスタでは、このパラメータがないので注意が必要です。ブレークダウンのシミュレーションでは、ブレークダウン開始電流 IBV (>0) とブレークダウン電圧 BV (>0) が用いられます。

IDC = -IBV (1-6)

IDC = -Is (e-q (BV + V)/kT - 1 + qBV/kT)  (V < -BV)  (1-7)

式(1-7)は、雪崩降伏のモデルに基づいているので、拡散電流モデルとの接続には注意を要します。即ち、IBV = Is {qBV/kT} とすべきです。Zener ダイオードのモデリングについては、別途、マクロモデルや物理モデルが報告されていますが、ここでは省略します。

 尚、SPICE ダイオードモデルには、雑音解析用にフリッカーノイズ (所謂 1/fノイズ) をシミュレートするためのパラメータもあります。半導体デバイスのフリッカーノイズは、主に、空乏層のキャリアトラップ(結晶欠陥や汚染不純物によりバンドギャップ中に生じた局在準位にキャリアが捕獲されること)によって発生することが知られています。この場合、単位周波数辺りのノイズパワーは、次のようになります。

<id 2> = 2q ID df + KF IDAF(df/f) (1-8)

ここで、ノイズ id は、ダイオードに並列な電流源として表されています。KF, AF はそれぞれ、雑音係数、雑音指数と呼ばれています。

Dotpn接合ダイオードのC-V特性

 図4-2-2, 4-2-3 を比較すると、p型とn型の間のポテンシャル障壁が順方向バイアスにより低くなった分、空乏層の幅も短くなっています。このことは、印可電圧を変化させることにより、空乏層に貯えられる電荷量が変化することを意味しますので、交流信号に対してはコンデンサと等価であると考えることができます。但し、直流電圧により、空乏層が大幅に変化するので、コンデンサーの容量は直流電圧の大きさに依存しています。

電磁気学によると、Qを電荷量、Vを導体間の電位差として、コンデンサの容量Cは、

C = Q/V (2-1)

と定義されます。しかし、ダイオードの場合、C が定数ではなく直流電圧 V に依存しますので、次のような小さな電圧の変化dVに対する電荷の微少変化dQによって、次のように表すことにします。

C(V) = dQ/dV (2-2)

これは通常、空乏層容量(Cj)と呼ばれています。さらに、順方向バイアス印可時には、注入された少数キャリアもコンデンサに溜まった電荷として働くため、この効果も考慮しなければなりません。この注入キャリアによる容量成分を、拡散容量(Cd)と呼びます。従って、全pn接合容量C は、次のように、Cj と Cd の並列接続で表現されます。

C = Cd + Cj (2-3)

容量−電圧特性は、半導体中のドナーとアクセプタの濃度分布に依存しています。典型的な例として半導体デバイス工学の教科書で紹介されている階段接合と傾斜接合を仮定し、空乏層内の電荷分布からポアソンの方程式を解くと、次のような式が得られる。

[階段接合]

Cj1 = S {q e Na Nd/2(Na + Nd)}1/2 (Vj - V) -1/2 = Cj1(V=0) (1 - V/Vj)-1/2 (2-4)

[傾斜接合]

Cj2 = S {q a e2/12}1/3 (Vj - V) -1/3 = Cj2(V=0) (1 - V/Vj)-1/3 (2-5a)

ここで、e は、半導体の誘電率、Vj は、ビルトイン・ポテンシャル(図4-2-2 におけるVbi)、a は、傾斜接合の不純物濃度の接合面付近の勾配を表します。これらをひとまとめにすると、次のようになります。

Cj = Cjo (1 - V/Vj)-m (2-6)

ここで、Cjo は、ゼロバイアスにおける空乏層容量です。m は、階段接合(1/2)または傾斜接合(1/3)を表しますが、実際のダイオードでは、この両極端のケースの間の値 (m = 1/2〜1/3) をとることになります。この空乏層近似による解析式は、V < Vj に於いて実測値と極めて良い一致を示すことが知られていますが、空乏層近似の成立しない順方向バイアス条件で数値計算上困った問題を起こします。即ち、V = Vj (順バイアス)において Cj が無限大に発散してしまうということです。これを避けるために、SPICEでは、V = Vj に近づいたところで、Cj-V特性を線形に外挿近似するようになっています。定義式は省略しますが、この近似の程度は、ポアソンの方程式を解く際に空乏層電荷の積分範囲を調整するパラメータ FC によって調整可能です。FC = 0 で、外挿が V = 0 から始まり、F = 1 で外挿が V = Vj から始まる(即ち無限大に発散する)ようになっているので、V = 0 (V) 付近であまり誤差が出ないようにします。

 拡散容量 Cd は、pn接合への印可電圧に対する少数キャリア濃度の応答の遅れによって見かけ上生じるものです。順方向バイアス印可されたpn接合の主要な容量成分であり、バイポーラトランジスタの動作周波数を決定する主要因でもあります。これは、蓄積電荷モデルの考え方に基づき電流−電圧特性から直接算出できます。

Cd = dQD/dV = TT dID/dV (2-8)

ここで、dQD は、注入された電荷のdVに対する変化であり、dIdは、拡散電流のdVに対する変化です。TT は、トランジット時間と呼ばれるパラメータで、キャリアのライフタイムと拡散係数に関係しています。

 以上のSPICEパラメータをまとめると次の表のようになります。

表1 ダイオードモデルのパラメータ
パラメータ意味デフォルト単位備考
Is飽和電流10-14A面積ファクタの影響有り
Rs直列抵抗0ohm面積ファクタの影響有り
Nエミッション係数1--
TTトランジット時間0s-
Cjoゼロバイアス接合容量0F面積ファクタの影響有り
Vjビルトイン・ポテンシャル1V-
m接合傾斜係数0.5--
EGエネルギーギャップ、ショットキー障壁1.11eV1.11:Si, 0.69:SBD, 1.42:GaAs, 0.67:Ge
XTI飽和電流の温度指数3.0-3.0:Si, 2.0:SBD
KFフリッカ雑音係数0--
AFフリッカ雑音指数1-A
FC順方向バイアス空乏層容量係数0.5-A
BV逆方向ブレークダウン電圧infiniteVA
IBV逆方向ブレークダウン開始電流10-3AA
TNOMパラメータ抽出(測定)温度27度CA
(参考)SPICE のデバイスモデルパラメータには、大文字と小文字の見分けはない。

Dotショットキーダイオードへの応用

 ショットキーバリア・ダイオードの特性は、半導体と金属のフェルミ準位の差により形成される電位障壁を乗りこえて流れる電流によって支配されます。図4-2-4 の熱平衡状態では、半導体側から金属への電子の流れと金属から半導体への電子の流れは釣り合っていますが、図4-2-4のように順方向バイアスを印可すると、同エネルギー状態の電子濃度の平衡が半導体と金属でずれてしまうため、半導体から金属への電子流が金属から半導体への電子流を上回るようになります。このメカニズムによる電流を熱放出電流 (Thermonic Emission Current) と呼びます。この他、図4-2-5 下図に示したように、pn接合の場合と同様、発生・再結合電流も流れます。さらに、半導体中のドナー濃度を高くし、空乏層幅が狭くなると、電子トンネリングによる電界放出 (Field Emission) が起こります。

Band Diagram of Schottky Contact

図4-2-4 ゼロバイアス時のショットキダイオードのバンド図

Band Diagram of Schottky Contact

図4-2-5 順方向バイアス時のショットキーダイオードのバンド図

 熱放出電流は、次式で表されます。

IT = Is(eqV/N kT - 1) (3-1a)

Is = S A* T2 e-q Vb/kT (3-1b)

ここで、A* は、有効リチャードソン定数と呼ばれるもので、電子の有効質量から算出できます(e.g. 250A/K2 for n-type Si, 8.1A/K2 for n-type GaAs)。Vb は、ショットキバリアの高さ(金属のフェルミレベルと半導体の電子親和力の差)です。従って、式(3-1a)のように、pn接合の電流−電圧特性と同形ではありますが、Is の温度依存性が pn 接合とは異なることが解ります。即ち、pn接合のバンドギャップ EG をショットキバリアの高さ(金属側から見た高さ)で置き換えればよいということです。また、飽和電流温度指数 XTI を 3.0 から 2.0 に変更すればよいということです。

 容量−電圧特性に関しては、通常、半導体中の不純物濃度は均一として接合傾斜係数を M = 1/2 とします。さらに、ビルトイン・ポテンシャル VJ は、n型半導体の場合、

Vj = q Vb - kT/q ln(Nd/ni) (3-2)

で与えられます。

 その他の特徴としては、ショトキーダイオードは、多数キャリアの熱放出が主な電流となるため、少数キャリアの蓄積効果が生じないことがあげられます。このため、拡散容量が発生せず極めて高速な過渡電流応答を示す。従って、トランジットタイムを TT = 0s としてもよいが、実測に基づき小さな値を入れておくとよいでしょう。

Dotダイオード特性の測定

[演習問題]

 以下のような測定を行うための回路を考え、シミュレーションと結果に対する考察を行え。

  1. バンドギャップEGを0.3eVから2.2eVまで変化させると、電流−電圧特性がどのように変化するか調べよ
  2. 温度を変えると電流−電圧特性と容量−電圧がどのように変化するか。温度は、.OPTIONS TEMP=100 のようにして指定できる
  3. 10ns 程度の電圧パルスに対する電流の応答波形をしらべよ。また、TTの値を変化させるとどのように応答がかわるか
  4. Rsの値を変化させると電圧パルスに対する、電流の応答は変化するか。
  5. Mの値を、1から2まで変化させ、容量−電圧特性が変化するか調べよ。1/C2−V プロットと1/C3−V プロットを行い、直線性も調べよ
  6. 上の課題5の結果から、ビルトイン・ポテンシャルを求めよ
  7. 順方向バイアスでの電流−電圧特性から、Is を求める方法を考え、Isの温度依存性を調べよ。
  8. Rsを変化させたとき、順方向電流−電圧特性はどのように変化するか。但し、順方向電流軸を常用対数目盛りでプロットすること
  9. 自分で、ショットキダイオードのモデルを作成し、pn接合ダイオードの特性と比較せよ。立ち上がり電圧、Isの温度依存性は、どのように違うか
  10. BV, IBVの値を変化させながら、ブレークダウン電圧と電流がどのように変化するか確かめよ
  11. 温度を変えるとBVの値は、どのように変化するか。また、この変化は、理論と合っているか

Copyright (C) 1998 Akio Kitagawa

Updated: