3.2 発振回路による遅延時間の測定

3.2.1 リングオシレータの動作

図3.3のようにインバータを3段従属接続して入出力間をループさせると、もとの入力論理値を反転した論理値が入力に戻り、入力が反転される。インバータの奇数段縦続接続ループ回路では、入力の反転は際限なく繰り返されるため、論理値が変化し続けて発振状態となる。この回路は、リングオシレータ(リング発振器)と呼ばれ、プロセッサ内部クロック周波数を制御する電圧制御発振器(VCO)などに利用される。リングオシレータの発振周期は、論理値がループを1週する時間に相当すると考えられるため、インバータ1個当たりの平均遅延時間が td であるとすると、N段のリングオシレータの発振周期は T = 2 * td * N で与えられる。発振周波数を測定すれば、インバータの平均遅延時間を求めることができるため、インバータ等の動作速度評価に用いられる。インバータの過渡応答は非常に高速な現象であるため、オシロスコープ等で過渡応答波形を実測して遅延時間を求めることは不可能であるが、周波数の測定は比較的簡単に高精度に行うことが可能である。ここでは、13段のリングオシレータを用いて、インバータの平均遅延時間と電源電圧の関係をシミュレーションにより調べてみよう。

3-stage ring oscillator
図3.3 3段リングオシレータ

3.2.2 電源電圧による遅延時間の変化

3.1.1で作成したインバータのサブサーキット not1.inc を利用して、13段リングオシレータのネットリストを作成し、ring1.sp のファイル名で保存しておく。電源ノードVDDに接続された電圧源VPWの直流電圧値をパラメータPVとする記述例を下に示す。PVを0.5V〜3.0Vまで変化させ、電源電圧とインバータの平均遅延時間の関係を求めよ。

.GLOBAL VDD
VPW VDD 0 DC PV
.TRAN 1ns 1us

ネットリストおよび.INCLUDE やシミュレーション制御コマンドは .ALTER より前に記述する。.ALTER で回路パラメータを変更する場合は、.PARAM を併用する。

.PARAM PV=0.5V
.ALTER
.PARAM PV=1.0V
.ALTER
.PARAM PV=1.5V
.ALTER
.PARAM PV=2.0V
.ALTER
.PARAM PV=2.5V
.ALTER
.PARAM PV=3.0V
.END

のように、電源電圧をパラメータ化することができる。過渡解析の時間ステップとシミュレーション終了時刻は、PV = 0.5V 以外のシミュレーションで発振波形が観測できるように調整すること。

[注意] 初期状態を安定状態からずらして発振を開始させるために、.IC V(何れかインバータの入力ノード番号)=0V を追加しておくこと。

[参考] 発振回路は、発振状態の他にバイアス点での安定状態を持っているので(つまり、回路方程式の解が2つある)、発振条件を満足していても外乱(雑音など)がなければ発振を開始しない。現実の回路では、電源投入や雑音による外乱があるため、各ノードの電圧が安定点から外れて必ず発振を起こすが、シミュレーションの上では意図的に外乱(初期電圧または電流)を加えなければならない。また、発振波形が安定するまでには、時間を要するため、十分長時間のシミュレーションを行わなければならない。

CosmosScopeで拡張子が .tr0〜.tr5 のシミュレーション結果ファイルを読み込んだら(Shift+ .tr0と .tr5をクリックするとまとめて選択できる)、発振波形を観察してみよう。.tr5 のファイルの信号選択フォームで、どれかのインバータの出力ノードを選択し、Match ボタンをクリックすると、PV = 0.5 〜 3.0V に対する発振波形が1枚のグラフに表示される。どの色が、どのPVに対応するかは表示されないので、グラフの凡例に示されている信号名(v(out)など)を右クリックし、ポップアップメニューから Attributes... を選び、Signal Attributes フォームの Label 欄に PV = 3.0V のように電源電圧を記入しておこう。グラフの凡例は、.ALTER によりシミュレーションを実行した順番に合わせて、上から順に表示されている。

レポート課題10リングオシレータの解析方法
(1) 過渡解析に使用した入力ファイル(ring1.sp)は、レポートの実験方法の章に貼り付けるため、保存しておくこと。レポートには、入力ファイルを貼り付けるだけでなく、どのような条件設定でシミュレーションを行ったか説明を加えること。

レポート課題11リングオシレータの実験結果とデータの処理
(1) リングオシレータの発振電圧波形をレポートに貼付けよ。電源電圧を記入しておくこと。
(2) 電源電圧と発振周期、インバータ平均遅延時間の関係を表すグラフを作成し、レポートに貼付けよ。Gnuplot等のグラフ作成ソフトを使用するとよい。

レポート課題12電源電圧依存性の実験結果の考察
(1) 電源電圧を変えるとインバータの遅延時間またはリングオシレータの発振周波数が変化する理由について考察せよ。


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