2.3 CMOSインバータの過渡解析

2.3.1 パルス応答の解析

過渡解析は、様々な入力波形に対する出力波形や各部の電位、電流変化をシミュレーションするものである。デバイスモデルの全ての情報を必要とし、回路規模の増大とともに急激に計算時間が長くなる傾向があるが、最も詳細な情報が得られる。

入力にパルス波を入力するため、SPICE入力ファイル inv1.sp を inv2.spにコピーして、inv2.sp に対して次の変更を行う。n(ナノ)とu(マイクロ)を間違えないように注意。

MOSFETサイズを固定するためSPICE入力ファイルに次の変更を行う。

M2行: L=0.5u W=2.5u AD=3.75p AS=3.75p

CLを変更してパラメトリック解析を行うために次の変更を行う。

CL行: 10fFから CAP に変更

入力にパルス波を入力するため、VX 行に次の追加を行う。

VX 3 0 DC 0V PULSE(0V 3.3V 2ns 1ps 1ps 2ns 4ns)

この中で、PULSE以降が過渡解析用の入力波形の記述である。意味は下記のとおり。

PULSE(初期値 パルス値 遅延 立上り時間 立下り時間 パルス幅 周期)

Definision of PULSE form

[注意] PULSEの立上り時間、立上り時間には、0(ゼロ)を設定してはいけない。実際の物理現象とかけ離れた値を入力することにより、数値計算ができない場合がある。例えば、配線抵抗0の理想的容量に0時間の電圧ステップを印加すると、∞の電流が発生することになる。

過渡解析を行うために次の解析制御コマンド行を追加する。

.TRAN 10ps 8ns SWEEP CAP POI 4 10fF 50fF 100fF 150fF

.TRAN10ps8nsSWEEPCAPPOI 410fF 50fF 100fF 150fF
過渡解析タイムステップシミュレーション終了時刻パラメータ変更してシミュレーションを繰り返すオプションパラメータ変数パラメータ4点でシミュレーションするパラメータ値リスト(スペースで区切る)

シミュレーションの時間間隔は、.TRAN コマンドで設定されたタイムステップの範囲で、シミュレーション結果の精度が相対許容誤差範囲に収まるように自動調整されている。タイムステップは、通常、シミュレーション終了時刻の1/100 〜 1/200 ぐらいにするとよい。

2.3.2 パルス以外の波形

過渡解析では、パルス波の他に、折れ線と、正弦波がある。参考までに、各波形の記述を下記に示す。

PWL(時刻1 電圧1 時刻2 電圧2 時刻3 電圧3 ・・・・ R)
SIN(直流成分 ピーク値 周波数 遅延 減衰係数)
PWLの最後に、Rを付けると時刻1に戻って繰返す。

Definision of PWL form

Definision of SIN form

2.3.3 パルス波形表示

HSPICEで上記のSPICE入力ファイルのシミュレーションを行い、入力電圧(Vx)と出力電圧の波形のグラフを作成せよ。また、M1の電流I(vcm1の電流), M2の電流I(vcm2の電流), 入力端子の電流I(vxの電流)の波形のグラフも作成せよ。CosmosScopeで読み込む、シミュレーション結果ファイルは、inv2.tr0 というファイル名となる。

レポート課題4過渡解析の方法
(1) 過渡解析に使用した入力ファイル(inv2.sp)は、レポートの実験方法の章に貼り付けるため、保存しておくこと。レポートには、入力ファイルを貼り付けるだけでなく、どのような条件設定でシミュレーションを行ったか説明を加えること。

2.3.4 スイッチング特性の評価

CosmosScopeを使用し、各CLに対して、表2.4のスイッチング特性に関する諸量を求めよ。

表2.4 スイッチング特性に関係する量
スイッチング特性を表す量定義
立上り時間 tr出力が振幅の10% -> 90% に変化する時間
立下り時間 tf出力が振幅の90% -> 10% に変化する時間
立上り遅延時間 tdr出力の立上り時において入力が振幅の50%を通過する時刻から出力が振幅の50%を通過するまでの時間
立下り遅延時間 tdf出力の立下り時において入力が振幅の50%を通過する時刻から出力が振幅の50%を通過するまでの時間
平均遅延時間 td(tdr + tdf)/2

Switching Characteristics
図2.9 CMOSインバータのスイッチング特性

立ち上がり時間、立ち下がり時間、立ち上がり遅延時間、立ち下がり遅延時間のグラフは、Measurement Tool を使用して作成できる。波形から値を読み取り、Gnuplotで作成してもよい(Gnuplotのほうが簡単)。

立ち上がり時間

  1. 調べようとしている立ち上がり波形の範囲を囲むようにドラッグし、拡大表示する
  2. CosmosScopeのメインメニューより、Tools | Measurement Tool を選び、以下の設定を行う
  3. Measurement: Time Domain | Risetime
  4. Signal: v(4) (出力電圧)
  5. Reference Levels: 10-90%
  6. Create New Waveform on New Graph: New Graph
  7. Risetime vs. cap にチェック
  8. Visible X and Y range only にチェック
  9. Applyボタンをクリックすると、立ち上がり時間のグラフが表示される

立ち下がり時間

  1. ルールバーのZoom to Fitボタン(虫メガにね四角のアイコン)をクリックして、一旦、全体表示させる
  2. 調べようとしている立ち下がり波形の範囲を囲むようにドラッグし拡大表示する
  3. Measurement Tool で以下の設定を行う
  4. Measurement: Time Domain | Falltime
  5. Signal: v(4) (出力電圧)
  6. Reference Levels: 10-90%
  7. Create New Waveform on New Graph: New Graph
  8. Falltime vs. cap にチェック
  9. Visible X and Y range only にチェック
  10. Applyボタンをクリックすると、立ち上がり時間のグラフが表示される
立ち上がり(立ち下がり)遅延時間
  1. 調べようとしている立ち上がりと立ち下がりの波形を含む範囲を拡大表示する
  2. Measurement Tool で以下の設定を行う
  3. Measurement: Time Domain | Delay
  4. Signal: v(4) (出力電圧)
  5. Ref. Signal: v(3) (入力電圧)
  6. Delay Level: 50%
  7. Ref. Delay level: 50%
  8. Trigger: 立ち上がり波形(立ち下がり遅延時間の測定では立ち下がり波形)
  9. Ref. Trigger: opposite (入力と出力の論理値が反転している場合)
  10. Create New Waveform on New Graph: New Graph
  11. Delay vs. cap にチェック
  12. Visible X and Y range only にチェック
  13. Applyボタンをクリックすると、立ち上がり遅延時間のグラフが表示される
レポート課題5過渡解析の結果とデータの処理
(1) 入力電圧(Vx)の波形と出力電圧の波形のグラフをレポートに貼付けよ。各波形に対するCLの値を記入すること。
(2) I(vcm1), I(vcm2), I(vx)のグラフをレポートに貼付けよ。各波形に対するCLの値を記入すること。
(3) 立上り時間、立下り時間、立ち上がり遅延時間、立ち下がり遅延時間のCL依存性の表またはグラフを作成し、レポートに貼付せよ。

レポート課題6過渡解析結果の考察
(1) 回路理論的には CL=0 のとき立ち上がり遅延時間および立ち下がり遅延時間は、いくらになると予想されるか。シミュレーション結果から得られたグラフをCL=0に外挿しても、遅延時間が0sにならないとしたら、原因として何が考えられるか。
(2) 直流解析で観測したI(vcm)の最大値と比較して、パルス応答の電流の最大値は大体一致しているだろうか? もし、異なっているならその違いの原因について考察せよ。


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