演算増幅器の測定回路

演算増幅器の特性は、電子回路シミュレータのAC解析によって容易に得られますが、実測するためには、少し工夫が必要です。特別な計測器は必要ありませんが、専用の測定回路を製作する必要があります。

例えば、入力換算オフセット電圧 VOS = 1mV、直流利得 Ad = 100dB(100,000倍)の演算増幅回路の+/-入力をショートした場合、計算上、出力に100Vの電圧が発生することになります。市販のシングルエンド型演算増幅器は、コモンモードフィードバックがかけられないため、負帰還をかけない状態で、+/-入力をショートすると、オフセット電圧の正負に応じて、出力電圧は、VDDまたはGNDに張り付いた状態となります。

1. オフセット電圧の測定

次の回路の様に、負帰還をかけて、1倍の正相増幅器(ボルテージフォロワ)にしてみると下の式のように、Voutから、オフセット電圧 VOS を求めることができます。この回路の動作原理は、次のとおりです。
  1. 負帰還がかかっているため、Virtual short と同じ原理で、入力換算オフセット電圧VOSを相殺するように、Veを発生しようとします
  2. VOSを相殺するのに必要なVeとなるようVoutが自動調整されます
なお、DUT(Device under test)は、測定対象の回路を指します。

ちなみに、電源の+/-の値も、なるべく正確に+/-の値を合わせておきます。差動増幅器は、2つの入力の差をとるため、GNDや電源の電位が変わっても相殺されるため電源電圧の影響は受けません(同相入力成分のキャンセル)。しかし、実際には、同相除去は完全ではないため、電源電圧の影響を受けます。特に、シングルエンド型の出力段増幅回路のGNDレベルに対する出力電位(システマティックオフセット)は電源電圧の影響を受けます。もっとも、演算増幅回路の内部構成にも依存します。

オフセット電圧は、通常 1mV以下の電圧なので、ナノボルトメータまたは高精度マルチメータを持っていれば楽勝ですが、シールドや積分時間の設定など、それなりに注意が必要です。これを改善するためには、ボルテージフォロワの代わりに、正相増幅回路を構成し、利得を持たせる方法が考えられます。しかし、DUTに利得を持たせると、その分、Virtual short の精度が落ちるため(Ad = ∞ の近似が成り立たない)、測定精度も下がります。

そこで、通常は、下記のような補助アンプ(Nullアンプと呼ばれます)を介して負帰還をかけ、DUT自体はオープンループ動作させ、Nullアンプに正確なVOSキャンセル電圧を出力させます。Nullアンプは、積分器を構成しており、直流で大きな利得(=DCゲイン)を持つため、VOSをキャンセルするために必要なVeをDUTに印加すると同時に、Veを与えるのに必要な電圧値をVout2に出力します。従って、Vout2の一部(R2とR4で分圧)をDUTに負帰還させるようにすれば、VOSを (1 + R4/R2) 倍に拡大した電圧を Vout2 に出力させることができます。Nullアンプは、単に利得の大きい増幅器であればよいため、とくに高い性能は要求されませんが、DUTと同じものを使用しておけば安全です。また、Nullアンプの入力レンジを大きくとるため、Nullアンプの電源電圧は、DUTの電源電圧と同じか、それよりも大きくします。

以上の回路方程式から、Vout2とVOSの関係が求められます。Vout2 を 1/(1 + R4/R2) 倍に縮小したときに、VOSを相殺するように Vout2が制御されることがわかります。また、Nullアンプのオフセットは、DUTの利得が大きければ無視できることも分かります。

例えば、R1 = R2 = 100, R3 = R4 = 99.9k とすると、Vout2 = 1000*VOS となり、1mV以下のオフセット電圧が容易に測定できます。ただし、抵抗器には、十分な精度は無いので、事前に正確な抵抗値を測定しておく必要があります。

2. DC利得の測定

通常、演算増幅回路の性能は、DC利得ではなく、GBP(利得帯域幅積)で評価しますが、計測回路やADCの場合は、DC付近での有効桁数を保証するために、DC利得を知りたい場合が多々あります。高性能演算増幅器のオープンループ利得は、120dB〜140dB以上にもなります。例えば、120dB(1,000,000倍)の演算増幅器の出力電圧が1Vのとき、入力電圧は1uVとなります。高級な電源装置や信号源でも、これだけ低雑音、低ドリフトのものはありません。ここでも、Nullアンプを使用した測定回路を用います。ここでは、Nullアンプは、DUTのVOSを負帰還により相殺すると同時に、あるUDTの出力変化を引き起こすために必要な入力電圧の変化を正確にDUTに印加する目的で使用されています。言葉では、分かりにくいと思いますが、式を追ってみると簡単です。

式が複雑になるので、ここでは、VOSは無視することにし、Vref >> VOS となるように Vref を与えます。

以上の回路方程式より、AdとVout2の関係が求められます。

適当な、Vrefを与え、Vout2を測定すれば、DC利得を求めることができます。例えば、R1 = R2 = 100, R3 = R4 = 99.9k, R5 = R6 = 200k, Vref = 1V ぐらいで調整してみましょう。

3. ACオープンループ利得の測定

DC利得で用いたVrefを用いてAC特性を測定しようとすると、Nullアンプの積分特性の影響を受けるため、DUTの周波数特性が求められません。そこで、Nullアンプは、VOSのキャンセルのためだけに使用し、AC信号は、DUTに直接入力し、Vout1を測定することにします。しかし、前節で述べたように、微小で低ノイズの信号源を用意することは難しいので、ある程度周波数が高くなり(数100〜1kHzぐらい?)、オープンループ利得が下がったところを測定します。低周波の部分は、測定できた周波数特性を外挿して。DC利得と交わるところが、ポールとなる周波数です。R1 = R2 = 100, R3, R4 = 99.0k ぐらいで。出力波形が綺麗に出なければ、R3を大きくするか、vsigの振幅を小さくしてみます。

4. CMRRとPSRRの測定

オフセット測定回路で、同相入力を行う代わりに、電源電圧を変化させて、等価的に同相入力を行います。このため、電源電圧のトータルが変わらないようにし、相対的にGNDレベル(VDDとVSSの平均値)だけが変わるようにします。

PSRRの測定の場合は、電源電圧のトータルだけを変化させ、GNDレベルが変わらないようにします。


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